講演

大会長講演

9月16日(金)10:10~11:05

家族への信頼、会話への信頼:家族療法から学んだ3つのこと

講師:坂本真佐哉(神戸松蔭女子学院大学)
司会:中野真也(東京福祉大学)

 私が家族療法から学んだことは,当然ながらたった3つなどということはないのですが,今回は敢えて3つに絞ってみます。
 1つ目は,ありきたりでしょうが,個人心理からコミュニケーションへの視点の移行です。駆け出しだった頃の私は,個人の内面の問題を見つけることに躍起になっていました。しかし,問題らしきものについて当事者と共有しても解決の糸口を見つけることはできず,問題について気づかせることが必ずしも解決につながるわけではないように思われました。家族や人間関係のコミュニケーションをシステムとして眺めるという視点やMRIのコミュニケーション理論を知り,逆説的なアプローチなどを試すようになっていきました。しかし,家族のコミュニケーションをシステムとして理解することが,すぐに家族面接を効果的に進めることにつながるわけではなく,苦い思い出も多々あります。
 私にとっての2つ目のインパクトは,「問題の外在化」でした。家族療法を実践し始めて少し経った頃,問題を外在化する手法を目の当たりにしました。その頃の私は,ジョイニングしながらシステムとしての仮説を立てて介入するという何かと忙しそうに見えるアプローチに自信を持てずにいたこともあり,希望の光を見つけた気がしました。つまり,「問題の外在化」が家族の視点に近いところに立てるシンプルな会話の方法に思え,後にこれがナラティヴ・セラピーにつながることを知りました。
 3つ目のインパクトは,ソリューション・フォーカスト・アプローチによる解決構築の考え方です。解決のために問題を知らなくてよい,というのは衝撃的でしたが,当初はユニークでよく練られた質問技法として理解し,その戦略的な側面に関心を持ちました。しかし,次第に質問による現実構成の側面に関心を持つようになりました。リフレクティング・プロセスやナラティヴ・セラピーと合わせて学んでいく中で,社会構成主義の考え方がクライエントはもちろん,セラピストにとっても有益であると考えるようになりました。
これまでの臨床経験について苦い思い出も含めて振り返りながら現在考えている家族支援のあり方についてお話ししてみたいと思います。

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基調講演

9月16日(金)11:10~12:10

”家族療法”のエッセンスをより活かすために

講師:児島達美(KPCL:Kojima Psycho-Consultation Laboratory)
司会:坂本真佐哉(神戸松蔭女子学院大学)

 心理療法の世界の中で“家族療法”ほど、その誕生以来理論および実践の両面において変転を重ねてきたものはありません。そして、現在においては、“家族療法”とはほとんど無縁のものとしか思えないほどのものまで登場してきています。それでもなお、私がこれまで“家族療法”への関心を失わずにこられたのは、実は1990年代後半に本格的に登場してきたパソコンのお蔭でした。
 「そうか、“家族療法”はパソコンのOSのようなものなのだ。これさえあれば、“家族療法”由来の各種モデルだけでなく、既存のほとんどの臨床・支援アプリをその都度起動させ、さらに、それらを組み合わせて活かしていくことができるのだ。」
 こう言うと、あまりにも手前味噌な話であちこちからひんしゅくを買いそうですが、私にとっては、“家族療法”のエッセンスを語るときに一番腑に落ちるところのものなのです。では、このOSの特徴は何かというと「システミックな認識法」と「治療的な会話法」の2つを挙げることができると思います。そして、このOSによって私が実感できたものは次の3つです。①「個人療法・支援の幅がより広がり立体的になる」②「組織あるいは社会の中での臨床・支援活動がよりスムースにできるようになる」③「若い臨床家・支援者がより効果的に面接法を学ぶことができる」。
 ところで、私は家族療法をあえて“ ”がきにしています。その理由は、上述のとおり、リン・ホフマンの言葉を援用すれば「家族療法は、(家族集団に焦点をあてるという)単なる新種の治療技法という以上のものである」からなのです。

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特別講演

9月16日(金)13:10~14:10

ゴリラに学ぶ私たちの家族の未来

講師:山極壽一(総合地球環境学研究所)
司会:坂本真佐哉(神戸松蔭女子学院大学)

 家族は人間にとって最も古い文化の装置である。それがどういう進化の道をたどって今あるような家族の形に行き着いたのか、ゴリラと比較してみるとよくわかる。ゴリラは一夫多妻型の10頭前後の家族的な集団をつくるが、他の家族と連合して大きな集団を作ることはない。人間の家族は、ゴリラなどの類人猿がいまだに住み続ける熱帯雨林を出てから、共食と共同保育によって脳容量と集団サイズを増加させて今の形になった。家族と複数の家族を含む共同体という重層構造を持つ社会である。そのころ人々を結びつけたのは音楽的コミュニケーションで、共感力を高める大きな役割を果たした。脳が大きくなった時代にできた集団のサイズは、スポーツの集団や社会関係資本として現代に生き残っている。7万年前に登場した言葉は人間の行為に意味を与え、世界を分割して物語を作り、集合的な意思をもたらした。しかし、言葉は人間にとって新しいコミュニケーションの手段で、信頼関係を広げることはできていない。むしろ人の気持ちを裏切り、現代では誤った情報を氾濫させて社会を混乱させている。コロナ禍で2年以上にわたって巣ごもり生活を強いられた今、家族の本質を見直し、新たな社会をどう再構築するかを考えてみたい。

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海外オンライン講演

※リモートでの講演になります

9月17日(土)9:30~11:30

Children and concerning sexual behaviour: A narrative therapy approach to children and their families
性的問題行動と子どもたち:子どもと家族へのナラティヴ・セラピー

Lecturer: Paul Flanagan (University of Waikato, New Zealand)
Interpreter: Yukari Barnard (NPACC: Narrative Practice and Coresearch Centre)
Moderator: Masaya Sakamoto (Kobe Shoin Women’s University)
講師:ポール・フラナガン(ワイカト大学・ニュージーランド)
通訳:バーナード紫(ナラティヴ実践協働研究センター:NPACC)
司会:坂本真佐哉(神戸松蔭女子学院大学)

 This lecture will include both a pre-recorded presentation as well as a live discussion.
 Narrative therapy developed within the practice of Family Therapy by Michael White (Australia) and David Epston (New Zealand) (White & Epston, 1989, 1990). The University of Waikato (NZ) counsellor education programmes are known for their distinctive orientation in teaching narrative approaches to counselling and therapy (see Crocket et al., 2017; Monk et al., 1997). Particular attention is given to understanding cultural and gendered contexts of people’s lives and their stories (see Waldegrave et al., 2003).
 This lecture presents key ideas about the theory and practice of narrative therapy with families, including particular attention to the ways that language shapes and constructs a person’s identity and self-understanding. I will then describe the application of a narrative therapy approach with children and families. Examples will be given about therapy with children and their families, where a child has participated in sexual behaviour with other children. This behaviour can be seen as concerning: it may be viewed as normal and exploratory, or possibly harmful and ‘too adult’ for children, or it might be abusive. Drawing on 25 years of practice and research in this area, I will share some examples of satisfying and difficult areas from my therapy practice with children and their families. I will also share outcomes of research in this area of understanding childhood and sexuality. I will then welcome your questions about how narrative therapy offers supportive approaches to families and children.

 この講演会では、事前録音されたプレゼンテーションとライブディスカッションを行う予定にしています。
 ナラティヴ・セラピーは、マイケル・ホワイト(オーストラリア)とデビッド・エプストン(ニュージーランド)によって、家族療法の実践の中で発展してきました(ホワイト&エプストン、1989、1990)。ワイカト大学(NZ)のカウンセラー教育プログラムは、カウンセリングとセラピーへのナラティヴ・アプローチを教える際、独特の方向性を持つことで知られています(Crocketら、2017;Monkら、1997を参照)。特に、人々の生活とそのストーリーを文化的・ジェンダー的文脈から理解することに注意を払っています(Waldegrave et al.2003参照)。
 この講演では、家族に対するナラティヴ・セラピーの理論と実践について、特に言語が人のアイデンティティと自己理解を形成し構築する方法に注目することを含め、重要だと思える考え方を提示します。次に、子どもや家族に対するナラティヴ・セラピーのアプローチの適用について説明します。また、子どもが他の子どもと性的な行動に及んだ場合の子どもとその家族とのセラピーについて例を挙げて説明します。このような行動は、正常で探索的であると見なされることもあれば、有害で子どもにとって有害で「過度に成熟している」と見なされることもあり、また虐待と見なされることもあります。この分野での25年にわたる実践と研究をもとに、私が子どもやその家族と行ってきたセラピーの中から、満足のいく例と困難な例をいくつか紹介します。また、子どもとセクシュアリティを理解するためのこの分野の研究の成果も紹介します。そして、ナラティヴ・セラピーがどのように家族や子どもへのサポートとなるのか、皆さんからの質問をお待ちしています。

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