9月18日(日)10:00~16:00
1.スクールカウンセリングにおける子ども・家族への包括的支援 -解決志向アプローチを活かして-
黒沢幸子(目白大学心理学部)
スクールカウンセリングにおける支援では、児童生徒たちだけではなく、その背景にある保護者、つまり家族への対応や支援が欠かせません。そして、子ども達や保護者との相互作用をもたらす教職員などの関係者への支援も重要です。それらの支援によって、子ども、家族、教職員に良い循環が生まれれば、当該の課題そのものの解決だけでなく、学級風土への良い影響、周辺の子ども達の改善・成長など、その良循環がさらに波及していきます。原因探しにとらわれず、一人ひとりをそれぞれの立場における当事者としてエンパワメントし、望む姿につなげていくことが、そのカギを握ることになります。
本ワークショップでは、当事者や関係者へのエンパワメントと未来につながる良循環をつくることに強みを持つ、解決志向アプローチの発想と技法を軸にして、黒沢がスクールカウンセリングの経験の中から開発実践してきたツールやノウハウを、事例などを通してご紹介するとともに、それらについて、ロールプレイやワークなどの演習を通して実践的に学びます。
次の書籍が参考になると思います。
黒沢幸子(2022)「未来・解決志向のブリーフセラピーへの招待 ―タイムマシン心理療法」日本評論社
黒沢幸子(2002)「指導援助に役立つスクールカウンセリング・ワークブック」金子書房
2.コラボレイティヴなシステムズアプローチ入門
田中究(関内カウンセリングオフィス)
支援における被支援者の期待は、支援者と被支援者とを結びつけます。期待にアクセスするためには、まず支援者の知識や経験を横に置く必要があります。家族療法/システムズアプローチ/ナラティヴ・セラピー、あるいは心理学であれ何であれ、支援者の中にある認識の仕方や方法論の一切をいったん留保できると、被支援者の支援(者)に対するその都度一回性の期待が浮かび上がってきます。到来する期待に誘われるかのように、対話的に関与する/専門性によってリードする/同席面接をする・しない/褒める・褒めない/助言する・しない等々、支援者の行為の仕方は定まっていきます。期待への応答は支援の不確かさを減らし、支援は〈コラボレーション〉に導かれるかのように展開するでしょう。本ワークショップでは、こうした支援の進め方について取り上げます。すなわち、家族療法とその周辺が積み上げてきた、相互作用/支援システム/セカンドオーダー・サイバネティクス/テクスト・アナロジー/not-knowingといった知見を一括し、「パターン」「フレーム」の2概念を軸に構成したコラボレーション・センタードなシステムズアプローチを提示します。関係者と協力しながら個別の状況にフィットした実践をしたいとお考えの皆様、ご参加をお待ちしております。
3.精神保健領域におけるナラティヴな対人援助入門
市橋香代(東京大学医学部附属病院精神神経科)
田崎みどり(長崎純心大学)
医療や支援の現場はナラティヴに溢れており、利用者(患者さんやご家族)だけでなく、支援者の中でもさまざまな物語が渦巻いています。今回のワークショップ(以下WS)では、メンタルヘルス領域におけるナラティヴな対人援助について一緒に学べたらと思います。
本WSでは、社会構成主義的心理療法の前提である「治療的会話」、そして「無知の姿勢」に注目します。「無知の姿勢」には、本大会のテーマである「会話への信頼」が必須です。講師2名は、この「会話」―他者と交わす会話だけでなく、内なる会話を含む―に少々こだわっています。テーマとしては、利用者と支援者のナラティヴが複雑に絡みやすい慢性精神疾患を有する方とのやりとりなどを扱います。
会話の際、相手のことばを聞いている自分に起こっているのはどんなことか。自分が発した「ことば」は相手にどんな影響を与え、そして相手は何を「ことば」にし、何は言わないのか。自分だけで考えているとよくわからなくなりそうなところを、「対人援助」を軸に具体的に考え、ナラティヴ生成の鍵となる理解―「腑に落ちる」という身体感覚を伴う理解―を少しでも味わっていただけたら幸いです。
定員30名
4.家族面接がうまくなる -初回面接を中心に-
東豊(龍谷大学)
本WSは家族療法初心者のためのものです。日々実際に家族を対象に臨床を行うことがあり、「何かと苦労している」人たちが主たる対象です。
家族療法の基本的な理論は紹介しますが、教科書的な学びは重視しません。めざしたいのは実践力の向上です。日頃困っていることを講師に投げかけディスカッションし、何か一つでも役立つお土産を持って帰っていただけたらと思います。
基本は家族面接全般に関わるディスカッションが中心ですが、特に初回面接に焦点を当てた学びの機会になればと考えています。
半世紀前、Jヘイリーは「その治療が成功するか否かは初回面接で予見できる」と述べましたが、これは実に正しいと思います。初回面接に来談するのが母親一人であろうが母子二人であろうが夫婦であろうが家族全員であろうが、その「場」を適切に理解できるセラピストが初回面接を上手に行えます。つまり来談者とジョイニングでき、彼らの期待や希望を膨らませることができるわけです。これが「良い変化」のための礎となります。
このような観点から、面接開始前におけるセラピストの心掛け、種々のシチュエーションの理解の仕方や適切な働きかけ方等、初回面接の諸相に注目したいと思います。
対面での開催を前提としてロールプレイを取り入れますので、参加者の積極的な関与を期待します。
5.家族療法実践講座 -初中級者のための家族面接ロールプレイ演習
中村伸一(中村心理療法研究室)
北島歩美(日本女子大学)
宮崎愛(誠信会児童家庭支援センターパラソル)
岩井昌也(クボタクリニック)
家族療法の実践向上のための初中級者向けのWSです。学会員限定25名の参加でグループ分けして、それぞれにインストラクターがついてロールプレイを用いた実践練習をします。ロールプレイに不慣れな方も歓迎です。そこで全員が治療者役割を経験できるようにすすめていきたいと思います。個々の家族員とのジョイニング、家族員間の関係性のパラフレージング、家族員間の関係性への共感あるいはジョイニング、問題を抱えて膠着している家族システムの理解、その理解を家族にフィードバックするかしないかの判断、する場合の方法、さらに進めれば関係を変化させるための介入の方法などについて体験的に学びます。(大会がZOOMになった場合は中止となります)
定員25名 会員限定
6.離婚と子ども -離婚家族を地域と連携して支援する-
企画者・話題提供者
小田切紀子(東京国際大学)
話題提供者
牧田裕美(政策局市民相談室相談担当課長)
山口恵美子(FPIC(家族問題情報センター)/明石市親子交流支援アドバイザー)
草野智洋(琉球大学)
曽山いづみ(神戸女子大学)
離婚家族、とくに親の離婚を経験する子どもへの支援には、行政、自治体、民間の連携が欠かせない。法務省(2021)による「未成年時に親の別居・離婚を経験した子に対する調査」では、親の離婚を経験する(した)子どもへの精神面のケアや自治体の相談窓口の必要性が明らかになっている。また、内閣府(2022)による「離婚と子育てに関する世論調査」では、面会交流の実施について概ね肯定的な結果が出ている。他方で、2014年に兵庫県明石市が、「明石市子ども養育支援ネットワーク」事業を立ち上げたが、全国展開には至っていない。
そこで、本ワークショップでは、自治体が離婚家族を支援する利点と課題、家裁と自治体と民間面会交流支援団体との連携の課題、支援者の育成、そして離婚家族を公的支援につなぐためのポイントや求められる社会の意識について、小田切からは、面会交流支援団体の認証制度、家裁と面会交流支援団体の連携の課題、法務省の面会交流への取り組みについて、明石市からは、明石市の事業の成果と課題、行政への要望、草野からは、2019年に沖縄で面会交流支援団体を立ち上げた経験から、運営上の課題や困難、行政や司法との連携の模索について、曽山からは、離婚を経験した子どもと父母それぞれに調査を行った結果から当事者のニーズと地域に根差した支援の重要性について話題提供し、参加者とともにディスカッションをする。
7.高齢者と家族への関わりを考える -孤独、介護、死別への対応-
渡辺俊之(渡辺医院/高崎西口精神療法研修室)
超高齢化した日本において高齢者の居る家族への関わりは必須である。代表的問題である孤独死、介護、死別における家族関係の理解や介入が何故必要とされているかは理解できるであろう。本学会では9つの基本理論の各専門家が乳幼児、児童・思春期・青年期、カップル、親子、高齢者家族への家族療法の研修と実践を行っている。
私の専門は精神分析的家族療法とバイオサイコソーシャルモデルであるが、この二つは高齢者と家族を理解するためには不可欠である。孤独死をした高齢者には誰が(内的対象が)居て、葛藤や苦悩を抱えていたのか。遺族からの話でそれは明確になるであろう。夫婦は口愛期的共謀(世話と被世話)、肛門期的共謀(支配と被支配)、性愛関係(男根的共謀)という三つの関係性を時と場合で使いわけるが、介護家族では脆弱化した身体機能のために、口愛期的共謀と肛門期的共謀が優性になる。コロナ禍で葬儀の形式も変わった。いずれ死は万人に訪れる。しかし死別という永遠の別れがあいまいな喪失化している。今日における死別と家族についても講義する。
定員50名
8.DVと児童虐待が併存する家庭の支援 -被害親・子どもの支援と支配構造の理解-
増井香名子(日本福祉大学)
本ワークショップでは、DVと支配構造の理解を踏まえて、臨床で応用可能なDV被害者の支援及び児童虐待とDVが併存するケースに対応する際の視点と方策を提供したいと思います。
DVと児童虐待は同じ家庭で起こっているにもかかわらず、DV防止法・児童虐待防止法をメインとしたそれぞれの枠組みの中での対応となっています。しかし、児童虐待の対応において支配構造の理解及び子どもの福祉のためにもDV被害者である親のエンパワメントと協働が不可欠です。また、大人のDV被害者を支援する際にも子どもの安全やケアの視点を持つことが求められます。
午前は、DVと支配のメカニズムの理解及び被害者心理を示した上で、被害者の心理教育的関わりも含めた支援の視点と方策を提示します。午後は、DVと児童虐待が併存する家庭への支援・介入のあり方を検討します。そのために加害者がどのように子どもや被害親の子育てに影響を及ぼしているのか支配構造の理解、複雑なケースを可視化する方法としてアセスメント・カンファレンスシートの紹介、親としての被害親との面接や子どもの関わりの視点などについて提示します。また講義内では、当事者インタビュー等の研究結果を踏まえるとともに、被害親との面接に用いることができるツールを、活用方法を含め紹介を行います。